『だれかのいとしいひと』

だれかのいとしいひと

だれかのいとしいひと

価格:580円(税込、送料別)

全部で8話の収録された短編集。
「転校生の会」という話は、その文言通り「転校生」という言葉に由来している人たちが集まる会だ。
主人公のあたしは、転校を繰り返す男子と付き合っていた。
その彼と別れるタイミングに「仕方のないこと。どうしても分かり合えないこと」が2人の間にあることに気付いたのだった。


転校経験者と未経験者。
そこには、お互いが理解し得ない差分があるのだ。
加えて幾度となく学生時代にその経験があると、慣れが生じるらしい。
どうすればそつなく周囲に溶け込むことができるか、感覚が備わってくるのだという。
新しい環境というストレスすら消えていくのだとか。
だから、あたしの元彼はそういう意味で、あたしには理解不能な人物と化してしまった。


「転校生の会」で、あたしは様々な人と出会う。
そんな中で、自分たちは生きながら、それぞれの目的地へ向かうためにいろいろなバス(喩え)に乗り続けているような錯覚を覚える。
その度に誰かと出会い、話をしたりしなかったり、そしてまたバスを降りていったり乗り換えたりする。
その繰り返し。


人生は長い目で見ると、乗り物に乗るような感覚。
知らない誰かと出会って、特別に仲良くなったり、お互いの人生に影響を及ぼさないまま通り過ぎていったり、すこしだけ関わったり――。
ただひたすら流れていく。


「恋愛とは呼べないような、恋愛からはみ出したような話を書いた」と角田さんはあとがきで述べている。
すべてが型にハマるわけではないのだ。
本書は「何でもかんでも、定型通りにする必要などすこしもない」というメッセージを発しているような気もする。