『スローグッドバイ』

スローグッドバイ

スローグッドバイ

価格:480円(税込、送料別)

10の話が収められた、石田衣良さん初の恋愛短編集。
どれも冒頭を読み返せば「あんな話だったな」と活き活きとした状況を思い出せる、記憶に強く残るお話。
普通のカップルの別れや、インターネット、デリヘル…一般的ではなさそうな出会いなど、多種多様な色をした恋愛が描かれている。


私が最も共感したのは、冒頭の「泣かない」という話。
浮気男と付き合うハナの悩み相談相手は、スギモトくんという主人公。
スギモトの同僚が浮気男なのだ…。
破局後、ハナとスギモトは電話で話すようになり、週末は必ず映画を観に出かけるようになった。
大して盛り上がるわけでもなく、淡々と日常のルーティンのような行事として、それでもゆっくりと流れるような時が続く。


ハナはどんなに泣ける映画を観ても、泣かなかった。
感情を失った顔をして茫然とスクリーンを見つめているだけだ、ということにスギモトはあるとき気付く。
彼女の傷付き方が、自分の想像以上に深いということを。


どちらかがきっかけを起こさなくては「2人」は始まらない。
本当によく一緒にいるけれど、1人と1人のまま。
そんな状況を脱却していくとき、アクションはさり気なく見えるけれど、実際はかなりドキドキするもの。
友だち→恋愛コースって一番ときめくのかも知れない、と思わせてくれる話。