『逃亡くそたわけ』

逃亡くそたわけ

逃亡くそたわけ

価格:420円(税込、送料別)

自殺未遂をしたことがきっかけで精神病院へ送り込まれた「あたし」は、“ひどい閉鎖的空間”からの脱走を決意する。
なごやん」という名古屋出身の若い男を誘い、2人で“塀の外”へ出ていくことに。


こうして2人の逃亡生活は福岡から始まり、博多まで続いていく。
九州の旅行記としても読めておもしろい。
なごやんがその間ずっと、彼所有のボロい車を運転する。
そして相変わらず「あたし」には「亜麻布二十エレは上衣一着に値する。」という幻聴が聴こえ続けていた。
幻聴だと分かっているものの、それを振り切ることができない。


さて、旅の途中であたしはなごやんを“誘う”。
長い間一緒にいるのに、1度もやらせてあげないなんて可哀相だから、という理由で。
しかし、なごやんはその話に乗らない。
お兄ちゃんのような優しい声で「おやすみ」と言って微笑む。
友だちでもない。
恋人でもない。
そんな男女が2人一緒にいて、隣の布団で眠り、何も起こらない妙に平穏な日々が、通り過ぎていく。


時折2人は「現実」に気付いてはっとする。
今のこの旅には、いつか終わりが来る。
連れ戻されるか、自分から主体的に元に戻るか。
永遠に逃亡し続けられるはずなどないのだから。


最後に、なごやんがちょうど逃亡を始めた日に「退院予定」だったことをあたしは知る。
「逃亡くそたわけ」と叫んでストーリーが終了するのだけれど、それは自分となごやん双方に向けて発した言葉だけでなく、幻聴をも吹き飛ばす「諸々に吹っ切れた」ことを象徴している清々しさがあった。