『鬼子 下』

売れない恋愛小説家・袴田は、大金を払い、息子を“まぐろ漁船”で処分してもらう手筈を整えた。
そして、最終的にそれは行われた。
改心したように見えた、そして昔のままに見えた息子は、袴田の目の前で、男たちに一瞬にして連れて行かれた。
遥か遠く、二度と会えない場所へと。


息子を消すための金を即座に得る見返りに、袴田は『鬼子』という「彼自身の生活を世に晒した私小説」の執筆を約束させられていた。
その相手は、敏腕編集者・芝野。
本作の主人公は一見すると袴田なのだが、実際のところ大きな鍵を握り、ストーリー自体を支配しているのは芝野である。


冷徹、合理的、血も涙もない…彼の真実の姿を形容する言葉は、すべてクールで非人間的なものばかりである。
表向きは、温和で人当たりのよい人間であるが、裏では恐ろしさしか持っていないといえる男。


どうして、息子がわずか半年の間に別人格を持ったように変わってしまったのか。
なぜ、妻が自分へあからさまによそよそしい態度を取るようになったのか。
娘が自殺した“真の”理由は何か。


想像もつかなかった袴田の歪んだ過去、衝撃の事実が、後半部で緻密に語られていく。
「え…」と絶句せずにはいられない終末。