『背広の下の衝動』

4つの中編小説から成り立っている作品。
タイトルにあるように、どの話もサラリーマンが主役。
しかも残念なことに、しがない、冴えないサラリーマン。


家族を持つ中年男性は、邪剣に扱われやすい。
ウザいだの、邪魔だの、洗濯物を一緒にしたくないだの…可哀相なことを言われる人が後を絶たない。
家庭のために頑張って働いても、その様だ。
新堂氏は、そういった哀しき現代の父親像を、非常に鋭く描いている。
これでもか、というくらい、中年男性の心の叫びが聞こえてくるかのよう。


「嫉」という話は、どうあがいても勝つことのできない、イケメンかつ鍛えられた身体かつ優秀な頭脳を持つ大学生が、娘の家庭教師に雇われたことから、悲劇が始まる。
妻の大学生を見る目、自分への自信のなさ、たまたま目にした不倫についての記事…それらがミックスされ、夫は病的な誤解をするようになる。
自分に嘘を吐いてまで、外で大学生と逢引き的な行為に出た妻を、睡眠薬で眠らせて事に及ぶ情景は、恐ろしくもありそわそわしたりもする。
最終的に、被害妄想から発展した荒んだ生活は、信じられない結末を生む。


どの話も決してあり得ない話ではないところが、現実味を感じさせ、ぴりっとした恐怖をもたらしてくれる。