『女王蘭』

一般的に「夜の蝶」と聞いて皆が連想するのは、美しく妖しい、そして多様な意味で危険な世界だろうか。
今は景気が悪くなり、地方はもちろん、歌舞伎町や六本木、銀座というトップの街ですら、閑古鳥の鳴く店が増え続けているけれど、その中でも売上を上げ続けるグループはある。
強さの秘密―それは、いかに冷酷になれるか、無慈悲になれるか、感情を捨てられるか、にかかっている。
キャストも経営者も、持つべきは「氷の心」。


ヒロインは、父親を間接的に殺した男へ復讐を誓うため、水商売の道へと飛び込んだ優姫。
「伝説のキャスト」と呼ばれる冬海を追い抜いた先に、男を潰せる時が待っている。
優姫は最初の頃、本音で客と向き合っていた。
それでも客は取れ、中堅店ではナンバーワンを勝ち取れたし、冬海の次点を取ることもできた。
ただ、それでは冬海を越すことはできない。
いかにして客それぞれに対応した女を“演じる”ことができるか、いかにして客の求める姿を提供することができるか。


基本的に、客はキャストへ色恋を求めている。
チャンスさえあれば、モノにしたいという幻想を抱いている。
どんなお爺さんでも、若者でも同じ。
それを叶えてやらずに、客をつなぎとめることは普通はできない…たとえ店の中だけでも。
社長の立花の言葉で、そのことに気付かされた優姫は、営業スタイルを一変させる。
それは、客から驚かれ、軽蔑され、新鮮に思われるほどだった――。


「風俗王」と呼ばれる、優姫の敵・藤堂と、同じく彼を潰そうとする業界ナンバーワンを張る男・立花。
2人の戦いに巻き込まれながら、自分の意思も叶えようとする優姫。
結末が想定していた通り、残酷に身を引き裂かれる気持ちになる終わり方である。
ただ、本書のタイトルにある「蘭」の要素が、最後の最後まで気高く表現された一冊。
高級店ならではの仕切り、仕組みが分かる本でもあった。