『無間地獄 上』

新堂冬樹氏お得意の闇金をテーマとした作品。
『底なし沼』よりもハードで気分が悪くなるのも、無理はないと言える。
というのは、本書は闇金の世界で生きる男を表面的に描いたものではないから。


主要登場人物の1人、桐生という富樫組(やくざ)若頭は、死人からをも金品を奪い、返済に充てさせるほどの冷血漢。
裏の世界で彼を知らない人はいないほど、権力を持ちながら闇金を経営している。


そんな彼の過去。
それは実に惨たらしい、おぞましい時間しかなかった。
虫が這いずり回るボロ家へ住み、実の父に犯され続け、最愛の祖母を失った後、父親を殺した。
目を覆いたくなるような、本を途中で閉じてしまいたくなるような、残虐な回想に私たちは何度も遭遇する。
彼は「金を持っていない奴は奴隷」という考えで生きている。
経験上、その言葉は重さを持つ。


不幸にも、桐生が狙いを定めた男がいる。
玉城というモデル顔負けのイイ男だ。
彼はエステのキャッチを行い、ハイレベル過ぎる美貌、高度な女誑しのトーク、女を骨抜きにするセックステクで、月間200万以上の給料を受け取る、優秀なセールスマン。
そんな彼を雇っている羽田は、愚かにもギャンブルに狂い、従業員の稼いだお金までもバクチに注ぎ込み、大借金を抱えていた。


金の返済をさせようと、桐生は羽田に近付きながら作戦を練る。
桐生は、偶然にも玉城を利用しようと思い付き、玉城を「裏書人」にさせるよう仕向ける。
知識の欠如、冷静な判断ができなかったことから始まった、玉城の不幸への道のり――。


きらびやかな生活から、一気に奈落の底へと落とされた気の毒な男。
残酷な過去を持つ男たちがひしめく本書は、読み始めると止まらない。