『忘れ雪』

本書は、アングラ経済小説の名手・新堂冬樹氏が書く“超純愛小説”。
そういう意味で、とても話題になったんじゃないかと思う。


悲しい物語は、孤独な少女と優しい男子高校生との出会いから始まる。
少女は5歳年上の高校生へ恋心を抱くが、2人は少女の事情のため離れ離れとなる。
「結婚しよう」という約束は、少女の心の内だけへ残り、そうして2人は大人になった。


あるとき2人は、偶然の再会をする。
しかし、当時高校生だった彼は彼女のことをまったく覚えていなかった。
ただ「これまで1度会ったことのある感覚」は抱いていた。
再び2人が離れる日まで、そして彼女に言われるまで、過去のことをすこしも思い出せずにいた。


1年後に、2人は出会ったときと同じ公園で会う約束をした。
ところが、思いもかけないトラブルが彼を襲い、彼は彼女との2回目の約束を果たすことができなかった。
悲劇は更に続いていく…。


信じていた女性が彼を邪魔していた本人で、その女性は自殺をする。
理由は、殺意を持っていなかったのに、最愛の彼を殺してしまったから。


悲し過ぎる話だ。
愛する人に愛されない悲しみ、すぐ近くにいるのに存在を気付かれない辛さ、助けたいのに助けられない距離…それらすべての残酷な物事が織り交ざり、ストーリーへ暗い影を落としている。
最後には、死が来る。


人はいつまでも、同じ人を想い続けられるものなのか。
どうしても忘れられない人はいるけれども、その人を追い続けてしまうことは、なんて悲しいことをたくさん呼んでくるものなんだろう。


読み終えた後、私は心にすっぽりと深い穴が空いてしまったようだ。