『人間は瞬間瞬間に、いのちを捨てるために生きている。』

岡本太郎氏の豪華随筆集。
母・岡本かの子、食、芸術、男と女…本書には様々な素材が入り混じっているから、まとまりがないように見える。
しかし、実は選び抜かれた文章たち。
これは貴重な文のまとまりの集合体。


頷いてしまう文がある。
―あなたは相手に対して虚像を描く。相手もあなたに対して虚像を見せつける。それが…
最近体験したことだから、真に「なるほど」と思ったのである。
虚像、幻想、想像、空想、勝手な思い…そのようなものが積み上がって、いざ相手と向き合ったとき、相手の意外な空虚さに驚くのである。
そして、すこし引いてしまう。
相手にしても同様だろう。
恋愛中は盲目になるものだけれど、相手に過度な期待を含めた想像をしては後で虚しくなる、というものを教えてくれるのであった。
知っているけれど、忘れてしまうことなのだ。


特に気に入っている文がある。
―芸術において表現されるのは…世界を自分のものにする、世界と自分を同化する、自分が世界である―言い換えれば自分が自分自身になりきるための、手段にすぎない…
自分が本当の自分であるための、表現手段か。
一気に開眼させられたように思う。


それぞれの言葉において、はっと立ち止まらせて、考えさせてくれる一冊。