『底なし沼』

闇金の帝王・蔵王金光は、単なる闇金業者社長ではない。
なんと、完済した借金の「二重取り」が彼のシノギであった。
そんな無茶苦茶なことができるのは不思議な話としか言い様がないが、実はからくりがある。
借金を返した後、金銭貸借書の原本を業者から受け取らないという恐ろしい“油断”をしている債務者が多いのだという。
その金銭貸借書を振りかざし、蔵王は取り立てに向かう。
逆らう者は、徹底的に「死に近い姿」または「死」へと突き落としていく…。
そこまでする背景には、蔵王の父親が親切な金貸しをしていて、なぜか債務者の怠慢により自殺へと導かれたという暗い過去があった。


あるとき蔵王は、日野というカモに出会う。
日野はかつて部下の借金をかぶって人生を変えてしまった債務者で、完済し終えた現在は結婚相談所の社長になり、羽振りのよい暮らしをしていた。
蔵王は日野の態度がどうしても気に入らず、彼から徹底的に金を奪い取ることにしたのだった。


日野と蔵王の対決は、始めのうちは両社互角に進んでいたようだったが、次第に蔵王が優勢となっていく。
関東一のヤクザ集団を交え、戦いは規模を拡大する一方となる。
人は一度綻びると、その穴はどんどん広がっていく―そのように「おちていく」様が、緻密に描かれている。


気持ちが悪くなるほどの暴力描写については、筆舌に尽くし難いほど身体を揺さぶる。
血が流れ、骨が砕け、肉が切り刻まれる…。


最後に、とんでもない切り返しが来た。
蔵王を殺したのは誰か。
誰が強くて、誰が弱くて、誰が自分の強さを隠しているのか。
最後までハラハラさせられると共に、地下社会のことを知れる作品。