『120%COOOL』

9つの短編が入っている。


待ち伏せ」は、水商売でしか生活の糧を得る世界がない、と思って生きている女の子の話。
水商売の雰囲気のないその女の子が、客からこう言われた。
「(中略)きみみたいな娘って、昔から、それができなくて悔しい思いをしてきたんじゃない? 弱さを演出するっていうのかな? 自分の弱さを男に見下させるっていうのかな。そういう部分を持ってる女って、夜の仕事だけに限らず、この世の中では有効なの(中略)」
ああ、なるほど。
弱さを意識してもらわないと、女として見てもらえにくいのね。
これまで幾度となく色んな男から言われてきた、男から女への言葉としては名誉ではない(「しっかりしている」「1人で何でもできそう、やってくれそう」「ほっといても大丈夫そう」)を、ようやく理解できた気がしたわ。
甘え下手というのもあるだろう。
すごく損。
私はそういう面で、器用な女じゃない。


ガリレオの餌」という話には、ハードボイルドさを装っている作家をとろとろにとろけさせてしまう“才能”を持った女の子が出てくる。
「本当に、先生のことが好きなのか? 決して真面目な感じには見えないけど」と尋ねられたとき、その子はこう答える。
嘘偽りのない、実に素直な言葉だと思った。
「男と女の仲が真面目に見える必要ある? 元々、すっごく不埒なもんでしょ、恋愛って。(中略)恋って、はたから見れば、どんな純愛だって滑稽なものでしょ。セックスのこと、英語で、メイクラブって言うでしょ。(中略)あーんなに変な格好してするんだぜ。愛を作るなんてちゃんちゃらおかしいよ、違う?」


別の場面で、その子はまた名言を口にする。
「男と女の間は、尊敬とやらが消える瞬間が楽しい」と。
「できる人だな」と思って尊敬していた昔の彼が、子どもみたい無邪気さを演出して甘えてきたその瞬間パッと、尊敬という名のランプが消えたことがある。
「何だこれ!」と、すこし嬉しく思いつつも、身体がむず痒くなるあの奇妙な感じ。


やはり、山田氏の小説はとても真っ直ぐ。
純愛なんてないのだ、ということ。
何がどうなるかなんて予測できないんだ、ということ。
それら2つを私たちにぶつけてくれる。