『落下する夕方』

江國さんの独特な平仮名使いが好きだ。
たとえば、おそろしく、ひと、のむ、おもしろい、うたう…など。
とても穏やかで、落ち着いた文章になる気がする。

主人公の梨果は長年付き合い、同棲してきた健吾に別れを告げられる。
別れの理由は「好きなひとができたから」。
健吾が好きになったその相手が、華子だった。
梨果の元から去った“健吾の場所”に、華子が住むようになる…

華子は多くの人を惹き付ける魅力を持っているひとだ。
嫌いだというひとも確実にいるタイプだと思うが、大概ひとから求められる。
華子の行動は、一言で片付けると読めない。まったく読めない。
そして、思考構造が他者と大きく異なっている。
だから「どうして怒るの?」と問いたくなるようなところで、怒ったりする。

自殺した華子。
彼女は生き辛さを感じていたように見えなかった。
ただ、いつの間にか消えてしまうようには感じられた。
1つの場所に落ち着くことなく、常にふらふらと浮遊しているようだったから。
「何事にも執着しないひと」だからこそ、自然に梨果の生活へと溶け込めるひとだったのだろう。

折ったページのうちの1つ。
清潔は孤独―この文章は、ひとりになってしまった人間の「ぽっかりと空いた穴」みたいなのを至極直接的に示している、と思った。