『フローズン・タイム』

大学生の頃、裸の女性がスーパーマーケット内を闊歩して買い物している映像を、劇場予告で観たのを覚えている。
それが『フローズン・タイム』だった。
あの衝撃的な場面は忘れられるものではない。
偶然レンタルショップで再会したので借りてみた。


主人公は彼女と別れて夜も眠れないほど憔悴した、気の毒な男子美大生。
彼は眠れないとき、時計を見ていると時間の進み方が極端に遅いことに気付く。
「眠れずに過ごす無駄な時間」を有効に使うため、彼はスーパーマーケットでバイトを始めることにした。


世界が多種多様な人に満ちているのと同様、彼の働くスーパーには、陽気な悪戯を好む人やおかしな店長、可愛い女の子など色々なタイプの人がいた。
その女の子も、彼と同じ時間の感覚を持っていた。


8時間勤務は果てしなく長い。
どう楽にやり過ごすかということにはルールがあり、それは時計を見ないことと気張らずに過ごすことだった。
彼女は腕時計の文字盤を絆創膏で覆っていたし、万一時計を目に入れてしまったものなら、目を手で覆い隠したくらいだ。


そんなある日のこと、彼は自分が時間を止める力があることに気付く。
勤務中に時間を止める。
そしてアーティストな彼は女性客のヌードデッサンをする。
ただ、美しいものが好きだったことを思い出す。


失恋の傷は癒えようとしていた。
夢を語り合える相手となった彼女にすっかり恋に落ちてしまった彼は、密かに彼女のデッサンを描き溜めていく――。


タイトルにもある、フローズン・タイム
時間を止めることはできても、巻き戻すことはできない。
そこがキモとなっているのではないだろうか。
1度相手の目に映してしまった映像を消すことは不可能であるし、いつかは時間を再び動き出させなくてはならない。
まさに、一時的な防波堤。


時間というものは、否が応でも人の心を変えてしまったり、自分の思考すら見違えたものとしてしまう。
恐るべきインパクトを持つ。
時間との向き合い方について考えさせられた1作。