『悪人』
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本を読む前に、映画を観てきた。
2つの大きな賞を受賞した吉田修一氏の話題作。
主人公の祐一は、出会い系サイトを通じて女と出会っていた。
1人の女を本気で好きになるが、約束を破られ、目の前で別の男の車へ乗り込む女。
怒りに駆られた彼は、2人を追いかける。
山の高いところまで上っていった車から、祐一は女が蹴り出されるのを目撃する。
女は頭を強く打ってふらふらしていたが、無事ではあった。
連れて帰るので車に乗って、という彼に女は「馬鹿にしないでよ」などと罵声を投げかける。
挙句の果てに、彼を人殺し扱いするのだった。
混乱してしまった祐一は、女の首を締めてしまう。
上の事件は、若い女性の殺人事件として世間の注目を集めた。
捜査線上に祐一の名が挙がる前に、彼はサイトで光代という女と出会う。
時間が経つうちに、2人は惹かれ合っていく。
本当に愛してしまったからこそ、祐一は震えながらも自分が犯した罪のことを光代へ話す。
驚きながらも気丈な様子でそれを聞く光代。
出頭しようと前に出ていく彼を引き留め、一緒に逃げることを提案。
そこから2人の長くも短い逃避行が始まった――。
「寂しいから誰かと出会いたかった」という台詞が印象的過ぎた。
切実な言葉だ。
孤独は他者の存在でしか埋められない。
表面上はいくら1人で生きられるとしても、人は人を必要としている。
祐一と光代の2人とも、人と関わって生きてはいるものの、すべてぶつけ合える相手などいないように見えたから、心が独りと化していたのだと思う。
大切な人がいなくなったら…と連想して泣いてしまった。
死んだ人は帰ってこないし、元通りにならない。
そんなあたりまえのことが、確実に受け入れられなくなってしまいそうだ。
誰が悪人といえるのか。
祐一は悪人なのか。
エピソードや事件の全容を見ていると、そうとは思えなくなる。