『美丘』

美丘

美丘

価格:540円(税込、送料別)

なんて繊細で、美しい描写なのか。
何度も読み返したい本は、世の中にさほど多くはない。
私は、この本を偶然手に取り出会えたことに、喜びを見出している。


タイトルにある「美丘」は、嵐のようにスピーディに、それでいてかなりディープな時を生き抜いた女の子。
美丘は半分自殺をしかけていたときに、太一と出会う。
惹かれ合い、近い存在の子をやむを得ず遠ざけ、ふたりは付き合い始める。
誰かを本気に好きになるということは、他の誰かを選ばないということであり、その誰かを傷付けることに他ならない。
恋とは、残酷な面も強いのだ。


さて、美丘は、現代医学では治療のしようがない難病を抱えていた。
それは「クロイツフェルト・ヤコブ病」。
手足の自由が効かなくなり、言葉も不自由になっていき、記憶すらなくなっていく。


初めて美丘と一夜を過ごした後、そんな重大な事実を告白された太一は、美丘と共に駆け抜けることを決意する。
その激動の半年が、太一の言葉で語られた小説。
単なる純愛小説とは思わなかったのは、どうしてだろう。
涙は出なかったけれど、心にせつなさがずーんと残る。
程良く重く、私の感覚を刺激する。