『世界クッキー』

世界クッキー

世界クッキー

価格:1,365円(税込、送料別)

エッセイや随筆をつい手にとってしまうのは「何でこの人、こんなこと考えてるん!?」と、自分では普段疑問にも思わないようなこと、まったく気にも留めないことがピックされていることが多く、とても興味深いから。


川上未映子さんは、そんなエッセイ・随筆の特徴を実に顕著に体現している人。
たとえば「ホテルの内部」というタイトルの文章。
作家なので何かとホテルを用意されるのだけれど、実際に時間がなくて泊まることはほとんどない。
蛇口を捻ることすらないときもあり「使われなかったホテルの部屋」に、感情が揺り動かされる。
その理由は、ホテルという機能が持っている哀しさが形を変えるからだとか。


さらに川上さんは続ける。
ホテルの要素は「何ひとつとして留まることは、金輪際ないのだ」という事柄。
その他の住宅なども人が移動したり状況に変化はあれど、ホテルのように実に一過性で、人の通過点となる場所とは異なる。
通過と再生が静かに繰り返されるところ、といえる。
ホテルに泊まると「通過点としてのホテル」に感情移入してしまい、ときどき不安定な気持ちになるそう。


読むと、ああ確かに半永久的に住むところではないと改めて考えるのだけれど、こんなことを自発的に思ったことはなし。
すごい人というのは、人が目を付けないところを見ているし、隙間的ともいえることから出発して何かしらを考え付くのだろう。
ふとした疑問の掘り下げ方が大事なのかも。


『世界クッキー』というタイトルも、すこぶる個性的で、思わずタイトル買いしたくなる。
いいなぁ。